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ヘシニャ

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島嶼看護

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ディスカッション2

エリス先生への質問1:
アボリジニへの医療提供についてです。日本でも、ある特定の宗教の方が病院に来られた際、医療提供をするのにとても気を使うケースがあるのですが、例えば、アボリジニの方に医療提供する際に、宗教や文化によって何か気を使うようなことはありますか?

回答:
オーストラリア各地には、多様な先住民の文化的慣習があります。私が仕事をしていた北西部では、死に関する特殊な慣習があります。死が目前の人がいると、家族のメンバーの多くはその人が亡くなる過程に参加して、彼らが信じる次の世界へと見送るのです。この場合の看護師の役割には、この文化的慣習を尊重することも含まれます。この先住民は亡くなってゆく人の髪を集め、その髪で特別なセレモニーで身につけるためのベルトを作ります。伝統を受け継ぐための法的な行事の際、たくさんの先祖の髪を身につけて、踊りの儀式をします。臨終に立ち会う看護師は、髪を集める手助けをしなければなりません。患者がリモートエリアにある実家の近くで亡くなる場合は、この髪を集める作業は簡単に行えます。しかし、多くの重病患者は遠くの主要病院に入院することになります。ですから、遠方にある主要病院の集中治療室や他の部署に勤める看護師に、患者の髪を集め家族に送ることにより、先住民の文化的慣習が継続されることの大切さを説明することもリモートエリアの看護師の仕事です。髪で作られたベルトには何百年来のものもあります。とても分厚いベルトで、何代ものご先祖の髪で作られています。この特有の慣習が継続されなくなると、先住民の方々はとても困ります。オーストラリアの各地にいる看護師の仕事は、地域に密着して、その場所で何が重要な慣習であるか理解することにあります。

エリス先生への質問2:
広いオーストラリアにおけるお産の現状、特にお産がどこで行われているかということと、産科医によるお産が多いのか、助産師によるお産が多いのかを教えてください。また、妊娠期・産熟期における鬱状況などがあれば、なぜそのような状況があるのかを教えてください。

回答:
これはダブルバレル(double-barreled = 二重銃身の意)の質問ですね。ダブルバレルというものをご存知ですか?1つで2つの機能という意味です。私は助産師であると同時にリモートエリアの看護師ですが、この分野に関連して、オーストラリアの政策というものに大きな変化が起こりつつあります。平成22年11月1日からは、助産師はそれまでよりも独立した実践が可能になります。助産師の状況は変わってきています。今までのところ、助産師は妊婦が何かの問題や困難に直面している場合に医師を呼ぶことになっています。通常の出産の場合、助産師が2人で妊婦の手助けをします。夫や妊婦の母親、あるいは叔母さんが出産に立ち会うこともあります。
オーストラリアでは、極度なリモートエリアでは子供を産ませないという政策があります。何故なら、多くのリモートエリアには助産師がおらず、新生児の救急蘇生が必要な場合、その手助けができる医療従事者がいないのです。ですから、妊婦は出産のために地域病院に移送されます。これは妊婦たちの、そして助産師たちの懸念でもあり、我々は妊婦が自宅近くでより良いサービスを受けられるように画策しています。
次に、ご存知のように、産後鬱というのは全世界共通の現象です。世界中どこでも女性は産後鬱を経験します。女性がどの文化圏にいるかは関係なく、平均で約10%の女性が産後鬱を経験します。オーストラリア先住民の女性の多くも、日本人や白人の女性と同じように産後鬱を経験します。長い時間家族と離れていることも妊婦が鬱になる理由の一つです。例えば、妊娠性糖尿病を患った場合、地元を離れ都市の病院へ行かなければなりません。出産前に、家族、そして自分の子供と離れて何週間も過ごすことになる場合もあるでしょう。自宅から離れて過ごすことで、妊婦はとても落ち込みます。
ほとんどの先住民女性に対する文化的儀式として、年上の女性がコンカ−ベリー・ブッシュ(キョウチクトウ科、カリッサ・スピナルム)と呼ばれる低木を燃やして、出産後の女性に煙をあてることで、母乳の出を助け、産後の痛みを癒すというものがあります。これはとても大切な文化的儀式です。妊婦の健康状態が悪く、自分が属する文化集団から何千キロも離れた都市の病院まで行かなければならない場合、彼女の周りにはそのような儀式を行ってくれる年上の女性がおらず、授乳ができない、あるいは通常よりも産後の痛みがひどいと感じてしまったりして、鬱状態になります。

エリス先生への質問3:
講演の中で、「現地へ行き、現地のスタッフ全体に教育を行うのが一番有効」だとお話されました。オーストラリアでそのような訓練が行えるようになってきたことには何か要因があるのでしょうか?

回答:
これもダブルバレルの質問ですね。オーストラリアでは、チーム単位での訓練の必要に迫られていました。最初にリモートエリアに根付いて働いていたのは看護師だけでした。そこに先住民のヘルスワーカーが加わり、ついには医師とアライド・ヘルス・ワーカーがやって来ました。しかし、やって来た医師たちが業務を引き継ぐと、それまで働いていた看護師とヘルスワーカーたちは医師の指示の下で業務を行うだけになります。医師たちは、看護師とヘルスワーカーの能力水準や自己裁量できる業務範囲が分かりません。2〜3の地域でこのような問題が起こった後、医師協会と看護師協会が協力して、トレーニングを始めました。医師たちが看護師たちの業務を引き継ぐことによって、緊急の場合に看護師たちが対応できなくなってしまうことを、また、看護師たちが先住民ヘルスワーカーの業務を全て担うことでヘルスワーカーたちの能力を低下させてしまうことを認識しなくてはなりません。このトレーニングは、医師、看護師、先住民ヘルスワーカーがチームとして学べる環境を目的としたものです。このトレーニングを実施することで、チームの中でお互いの業務範囲について認識するきっかけとなりました。

石垣先生とエリス先生への質問:
日本でもオーストラリアでも、都市部の学生や看護師は「リモートエリアには行きたくない、行かない」という現状があると思います。リモートエリアで働く人たちを増やすには、石垣先生は基礎教育のところでトータルなところが大事だとおっしゃっていました。それは実際には、大学院と実践、基礎教育のところをどのように繋げていけば上手くいくとお考えですか?

石垣先生の回答:
的確にお答えするのはなかなか難しいご質問ですが、今、沖縄は離島実習ができるということで、とてもうらやましい環境だと思います。他の地域に住んでいる場合、リモートエリアで実習を行うことが難しくなっています。私たちも試験的にリモートエリアでの実習を試みてみる必要もあるのかと思っています。楽しくて、やりがいが感じられる看護実践を学生のうちに経験して、何かをつかみ取ってもらいたいと思います。専門的なことを教える、学ぶことも大切ですが、細かいことを一生懸命教えるよりは「人とはこういうものなんだ」「この地域で暮らしている人はこういうものだ」というものをつかみ取ることができれば、リモートエリアに行きたいと思う人も増えるのではないでしょうか。そして、そのような人が増えれば、オーストラリアや太平洋諸島のようにリモートエリア・島嶼看護が活発になっていることを今日学んだのですが、日本でも活発になると思います。その結果、環境の厳しい離島には行きたくないというようなこともなくなるのではないでしょうか。

エリス先生の回答:
オーストラリアでは、人々がリモート地域に行って仕事をするための後押しができるように、いくつかの特別な戦略があります。CRANAplusの学会は毎年開かれますが、その学会に参加する学部生には助成金を与えます。学会において、学部生たちはリモート地域で働く看護師たちと出会い、リモートエリアでの実践について話を聞くことができます。さらに、リモートエリアでの就職説明会に参加したいと思う学部生にも必要であれば助成金を出し、飛行機代と宿泊代を負担します。このように、リモートエリアで働く看護師を得るためいくつかの努力をしています。
もう一つの後押し手段として、学生クラブというものがあります。ルーラル・リモート看護に興味のある学生たちが参加するクラブで、我々はそこで発表をしたり、楽しいアクティビティーをしたりします。さらに、クラブ参加者はそこで、ギプス包帯や縫合の仕方、そしてレクリエーションのコースといった技能を学ぶこともできます。このように、勉強に集中して、将来のことについて考えている学生たちに対して、我々のリモート地域看護に人材を得る努力は向けられます。

 

 

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